NGOで働く―52団体・659名のデータから実態を見る

仕事・キャリア2018.07.18

“NGOで働く”ということにどのような印象をお持ちだろうか。2017年に実施した実態調査から、組織が職員に提供する職場環境と実際に働く職員の傾向を概観する。そして“NGOで働く”という実態を考える一つの視点としてNGOの給与と民間給与を比較し提示する。


NGO52団体・659名に対し調査を実施

国際協力NGOセンター(JANIC)は、2001・2007年にNGOで働く職員の待遇や福利厚生に関する実態調査を行った。これを引き継ぎ「NGOセンサス」という名で、2015・2017年に(特活)Green Projectと共同調査を実施した。「NGOセンサス」ではこれまでの団体に所属する職員一人ひとりの性別・年齢・学歴などに加え、新たな試みとして給与額を質問に盛り込んだ。一般的に日本のNGOで働く職員の給与は低いと言われ、またそう考えがちであるが、実際どの程度なのかその実態を明らかにすることを狙いとしている。

本報告で使用するデータは、2017年10月5日〜11月5日の調査日程で行った「NGOセンサス2017」の調査結果である。調査方法は、JANIC正会員ならびにJANICを合わせた110団体に表計算ソフトで作成した質問票を電子メールにて配信し、52団体から659名のデータを回収した。52団体の収入規模については、各団体の最新の決算書をもとに算出した結果、平均収入規模が3億6,228万円、中央値は9,502万円ということからも、業界内において比較的規模の大きな団体のデータであることを、あらかじめ念頭に置いていただきたい。

就業規則など各種規定の整備状況は?

まずNGOの働く環境の実態を把握するために、就業規則を始めとする諸規定の整備状況を確認する。調査結果から見る限り、就業規則や給与規定といった基本的な規定は、ほぼ全ての団体で整備されている。しかし、多様化する働き方や働きやすい環境作りの一つでもある育児・介護休暇規定では71% 、ハラスメント規定においては46%の団体しか整備されていない。

一方で、規模の大きい団体が多いという前提がありながらも、退職金規定は46%の整備状況に留まっている。また個人情報保護規定に関して、職員の個人情報を保護するという面は勿論のこと、日常的に寄付者等の個人情報を扱うことが多いNGOにおいて、未だ明文化されていない団体やそもそも定めていない団体が25%存在していることは、寄付者等との信頼に直結することからも早急に改善が求められる。

規定の整備状況/出典 NGOセンサス2017 調査結果報告

次に給与の支払い基準となる給与テーブルまたはそれに順ずるものと、昇給に関する制度がどれ位整備されているのかについて確認をした。その結果、40団体(77%)は給与テーブルがあり、同様に昇給制度を設けていた団体は26団体(50%)であった。また上記にて給与規定を定めているとした48団体(92%)の内、給与規定に加え、給与テーブルまで整備している団体は全体の40団体、昇給制度まで整備している団体は25団体であった。未整備の理由としては、「そもそも財政規模が小さくその必要性がない」や「財政が安定しないから」といった声が聞かれた。しかしながらこのような給与テーブル・昇給制度は、働く職員に対する評価という面もあり、その基準の見える化や明確化が望まれる。

給与テーブル・昇給制度の整備状況/出典 NGOセンサス2017 調査結果報告

残業や住居など手当に課題

就業時間を定めていると答えた団体は83%であった。平均就業時間は9時30分から18時まで(1時間休憩)の8時間半が最も多い回答であり、中にはフレックス制など多様化する働き方に合わせて制度を導入している団体も数団体見られた。就業時間に対して、支払われる手当や福利厚生の状況は下図の通りである。

基本給や通勤手当・社会保険・労働保険などといった基本的な手当・福利厚生は支給されている一方で、残業手当・退職金は約半数に留まり、住居手当や扶養手当・家族手当に至っては、全体の40%以下の団体しか支給されていない。財政的課題がある一方で、団体として職員が少しでも安心して働けるように、これら手当・福利厚生の改善を通して働く環境を整えることは今後の重要課題である。

給与・福利厚生の支給状況/出典 NGOセンサス2017 調査結果報告

NGOで働く有給職員のバックグランド

これまで働く環境を概観してきたが、そこで実際に働く職員の属性はどのようなものであろうか。これ以降は、個人に焦点を当てる。

一般的なNGOでは、インターン・ボランティア・職員・役員に対し、有給無給・専従非専従という所属形態があるが、ここでは最も多い有給専従職員(659名中409名、以下有給職員)に焦点を当てその傾向を見ていく。有給職員の性別は、かねてより女性の働く数が多い業界と言われてきたが、下図の通り現在もその傾向は変わらない。また年代においては男女共に30代が最も多く、40・50代と続く。

有給職員の性別・年代別グラフ (単位:人)/出典 NGOセンサス2017 調査結果報告

有給職員はどのような背景で採用されたのか。その問いに対して67%が「欠員補充の為」、33%が「事業拡大のため」という結果であった。また全体の1%にも満たないが、「定期採用」もある。次に採用ルートは、主にPARTNER国際協力人材サイトや関係者からの紹介、インターン・ボランティアからの採用が多く挙げられた。最後に学歴は大学学部卒60%、国内外の大学院修士・博士卒34%と高学歴化が見受けられた。専門は国際関係を中心にITや建築・家政・栄養・看護・経営・商学・外国語といった幅広い専門分野から集まっている。

3~4年在職後、次のキャリアへ

有給職員が一団体に在籍する期間はおよそ3〜4年である。これを超えた職員は次に、6〜7年目、9〜10年目とおよそ3年周期で退職する時期が来るようである。この退職理由であるが、圧倒的に多く挙げられたのが転職であり、2番目に契約満了、3番目に転居、4番目に健康上の理由が挙げられた。2001・2007年の調査にでも職員の燃え尽きが課題として挙げられたが、現在においてもやや課題が残っていることも伺える。

退職理由の一番に挙げられた転職はどうなっているのか。253名の転職先データ(下図)を見ると、他のNGO団体に転職(25%)、国際協力関係機構(政府機関•国連等)(18%)、NPO団体(15%)、JICAボランティア(11%)と合わせて69%が、非営利業界内での転職となっている。また企業等営利団体への転職(20%)や新たにNGO団体の設立(3%)となっているが、これらは退職理由として挙げられた、意見・方針の不一致、給与への不満、が背景になっていると考えられる。

転職先/出典 NGOセンサス2017 調査結果報告

NGO職員の給与は低いのか、高いのか

最後にNGO職員の給与についてである。前述した通り、あくまで業界内において収入規模の大きい52団体のデータであり、全体を網羅するものではない。またNGOで働く理由は給与だけではないが、「NGOで働く」ということを考える視点の一つになること考えられる。

まず今回の調査結果から有給職員全体の平均給与は、341万円であった。この数値を世の中の給与水準と比べるために、内閣府が行う「平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査」と、年度は異なるが最新データである国税庁の「平成28年度分 民間給与実態統計調査」を提示する。NPO法人の有給職員の平均給与は231万円であり、民間企業の平均給与は487万円であった。このことからNGO職員の給与は、NPO法人にて働く有給職員よりは高いが営利企業で働く職員よりは低い傾向にあるということがわかる。

下図は、性別・年代別のNGO給与である。まず性別による給与格差があまり見られない。具体的には、前述の国税庁の調査では、男性の平均給与540万円、女性373万円と性別による差が存在する一方で、NGOは男性331万円、女性346万円と差がない。またそもそも女性の給与額が男性より高く水位していることも特徴の一つである。

有給職員の性別・年代別給与グラフ/出典 NGOセンサス2017 調査結果報告

「NGOで働く」環境の改善を

「NGOセンサス2017」の調査結果をもとに、「NGOで働く」ことを概観してきた。組織が職員に提供する働く環境は、基礎的な整備は進んでいる一方、安心して働けるのかと言われると、手当や福利厚生はまだ十分と言える状況ではない。しかしながら、今回の調査で働く環境や給与を数値で見える化したことは、改善を考える上で少しの前身と考えられる。各団体でも環境を整備する際の参考資料の一つとしてご活用いただき、NGOの職場環境改善やNGOの業界発展の一助になれば幸いである。


参考資料
・「NGOセンサス2017」(PDF:811KB)
・「NGOセンサス2015」は、冊子として発行しています。ご覧になりたい方や本調査に関するご質問等ある方は、JANIC NGO組織強化担当までお問い合わせください*「NGOセンサス」(2015・2017)は、立正佼成会一食平和基金「NGO切磋琢磨応援プロジェクト」の一環で実施しました。
・内閣府(2018)『平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査』p.36
・国税庁(2017)『平成28年度分 民間給与実態統計調査』p.13

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