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[ NGOは今 vol.3 ]NGOの価値の再定義-ネクスト若手NGOはどう生まれるか?

連載2018.02.19

バングラデシュなどアジアの国々でITを活用した教育支援を行うe-Education。

国際協力を担うアクターの多様化と社会課題のボーダレス化が進む今、NGOに何が求められているかを考える連載。第3回はーー2011年に創業し小沼大地さんが代表理事を務めるクロスフィールズや、2010年に税所篤快さんが創設し、現在は三輪開人さんが代表理事を務めるe-Education以降、国際協力業界で特筆した成長を見せる若いNGOが生まれていない。なぜ若いNGOが生まれてこないのだろうか?


若いNGOが頭角してこない理由

まず考えられる大きな理由は、財源の持続性だ。多くの場合NGOは寄付金収入をもとに事業運営を行っており、マンスリーサポーター制度のような継続寄付の仕組みが整っていない限り、どうしても不安定な経営状況に陥りやすい。加えて、寄付金をベースにした財源戦略をとる場合、既存国際協力NGOが行っている寄付金獲得戦略にどうしても若手NGOが太刀打ちできず、新たな支援者を獲得しにくいことが挙げられる。

そうしたNGO業界の中で、既存のやり方を踏襲したままNGO運営をしていくことは非常に難しい。若手NGOがある程度の財源、具体的には正職員を雇用できるレベルにまでテイクオフするためには、“NGOらしくない”拡大戦略を世の中の潮流に合わせて柔軟にカスタマイズしていけるかが求められてくるだろう。

なくなりつつある営利・非営利の壁

“NGOらしくない”とは、具体的にどのようなアプローチが考えられるだろうか。
例えば、仮想通貨など既存NGOがすぐに参入しにくいであろう領域、とりわけテクノロジーを積極活用した資金調達には参入余地が多分にある。また、寄付収入をベースにするのではなく、事業収入をメインに据えて財源の拡大を狙うこと、場合によってはソーシャルビジネスのような手法をとることも考えられるだろう。実際、前述のクロスフィールズやe-Educationは事業収益型の成長戦略をとっており、このことが団体として大きく成長した要因となっている。

他に“NGOらしくない”発展をした例として、Living in Peaceを紹介したい。
メンバー全員が本業を持つビジネスパーソンであり、専従職員を持たないプロボノ集団だ。人件費が発生しないため、社会課題の解決のために財源を集中的に投資することができる。まだ設立10年ほどのNGOながら、金融やIT企業、開発コンサルタントで働く多様なビジネスパーソンの強みを活かし、途上国でのマイクロファイナンス支援などを手がけ、専従職員がいる団体と同じかそれ以上の成長を続けている。

本業以外の時間で集まり会議を行うLiving in Peaceのメンバー。

そして最近では、かものはしプロジェクトからカンボジア事業が独立する動きもあった(本連載第2回)。児童買春問題が解決に向かうに連れて事業の方向性が異なってきたことが独立の理由の一つとされているが、これと逆の現象が起きることも容易に想像できる。つまり、ビジョンの合致が起これば、NGOの統合もこの先起こるのではないかということだ。また、民間企業が市場経済の中で自然淘汰されていくように、収入面で上手く運営のできていないNGOが淘汰されていくことも十分にありえる。

若手人材の不足

若いNGOが生まれてこないだけでなく、さらに強く感じるのは、業界の圧倒的な若手人材不足だ。
大きな理由の一つは、民間企業による社会課題解決領域への参入の流れがあるだろう。今や社会貢献に携われる会社が増え、NGOよりも大きなお金を動かしながら社会を変えていくことも可能である。さらには、社会課題をビジネスを通して解決することを目指す「ソーシャルビジネス」も現れ、以前ならNGOに参画していたかもしれない若い人材がこうした民間企業に流れてしまっているように感じている。

NGOと民間企業に“営利・非営利”の壁がなくなりつつあることが、若いNGOが生まれないこと、若い人材が業界に現れない最大の原因となっていると考えられる一方、社会課題の解決に携わるアクターが減っているわけではない。ならば、新しいNGOが生まれてこないことを決して危惧する必要もないのではないかとも思える。ただ、あえて若いNGOが生まれるべきという立場に立つならば、少なくとも“NGOの価値”を再定義する必要があるだろう。

NGOが提供できる価値の変化

少し未来の話をしたい。例えば、今後世の中の仕事が人工知能(AI)に取って代わられ、間違いなく人々の仕事に従事する時間が減少する。さらにすでにケニアやウガンダなどのアフリカ諸国でも一部導入され始めているベーシックインカムが日本にも導入されるようなことがあれば、労働時間の減少によって新たに生まれた時間を、お金を稼ぐためでなく、「社会貢献活動に充てたい」と考える人も出てくるはずだ。

心理学者のマズローが提唱した欲求の5段階説は有名であるが、その最上位に位置する「自己実現欲求」までを超えた“社会全体の利益を実現する欲求”がテクノロジーの発展と共に生まれる可能性がある。そしてこの予測は、NGOにとっては追い風となるだろう。

NGOについて給与などの待遇面が低い印象を持つ人は多く、そのことが若者のNGO離れを後押ししている印象を受けるが、将来的にNGOは対価として給与を出す組織ではなく、とことんまで“社会課題の解決”を追求し、その結果生み出された“社会へのインパクト”こそ、NGOで働く価値になることが起こるのではないかと予想する。金銭的報酬ではなく“社会全体の利益を実現すること”が、NGO参画者の欲求を満たし、社会貢献活動に時間を使うことが“価値”になる時代が来るのではないだろうか。

こうした時代が来る前提に立った時、今後NGOが発展していく鍵は2つの両極端なパターンのいずれかであると予想する。一つは、非営利性・非政府性を度外視し、事業収益などもあげながら発展していく、まさに営利・非営利の壁をとっぱらうパターン。もう一つは、とことんNGOが発揮できる価値を追求し、政府や民間企業が取り組まない社会の隙間で起こっている課題の解決に挑み続け、そのことで“社会全体の利益を実現する欲求”を満たす価値を生み出すかだ。

これから注目のネクスト若手NGO

前者はクロスフィールズなどの事例を挙げたが、後者にあたる「ネクスト若手NGO」は現在いないのだろうか。個人的な意見も混ざるが、次の2つの団体は今後の成長に期待ができると感じている。ソマリアギャングの社会復帰支援をメインで行うアクセプト・インターナショナル、日本にいる難民への支援を行うWELgeeだ。いずれも国際機関や政府組織、民間企業が参入しにくい領域で活動を継続し、NGOだからこそできる価値を提供しようとしている。

テロと紛争の解決を目指すアクセプト・インターナショナル。

WELgeeが行うイベントの様子。難民の方々も多数参加している。

このように、営利・非営利の壁がなくなりつつある現在と、今後起こるテクノロジーの進化や労働の対価に対する概念の変化によって、NGOの価値は大きく変化していくと思う。事業規模を大きくしていくことももちろん大切なことであるし、そのことによって活動インパクトが大きくなることと思うが、そうした活動は最先端のテクノロジーを扱うベンチャー企業など営利組織の領域にどんどんシフトしていく可能性が高い。NGOとして将来もあり続けるには、財源の規模以上に、政府や民間企業が参入できない領域に対して、厚く丁寧な援助ができるかという部分こそ、これからの“NGOの価値”になっていくのではないだろうか。

連載 NGOは今
vol.1 貧困、紛争、災害。世界の社会課題を解決するために-NGOに今、何が求められているのか

vol.2 ソーシャル・アントレプレナーとしてスタートし、イシューを追いかけた15年―子どもが売られない世界はつくることができる

vol.4 ハイブリッドなネットワークNGOに

 

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