“NGOで働く”環境はどう変わったのか?ー約50団体・630名への3度の調査から傾向を見る

仕事・キャリア2020.09.01

2018年7月に本誌に掲載した「NGOで働く―52団体・659名のデータから実態を見る」は投稿後から現在まで多く人びとに読まれ、仕事を通した社会課題解決への関心が伺える。今回は、これまでに実施した3度の実態調査から、その変化を見ていく。


NGO約50団体・630名に対し3度の調査を実施

日本最大のNGOネットワーク組織である国際協力NGOセンター(JANIC)は、NGO職員の待遇・福利厚生に関する調査(2001・2007年)を継続的に実施してきた。これを引き継ぐかたちで、新たに職員一人ひとりの性別や年齢・学歴、そして給与額の質問項目を追加し、「NGOセンサス」という調査名で、JANIC正会員とJANICを合わせた団体に対して、2015年度より隔年で調査を行っている。

本調査は、NGO職員の働く環境の把握と共に、一般的に低いといわれている、日本のNGOで働く職員の給与の実態を明らかにすることを狙いとしている。本報告で使用するデータは、2015、2017、2019年の3度にわたり実施した調査結果である。回答を得た団体と個人データ数は表1の通り、年度によってばらつきがあるため単純に比較をすることは難しいが、全体の傾向を見るという前提であれば差し支えないであろう。尚、参考資料には、各年度の調査結果を掲載しており、適宜ご参照いただきたい。


就業規則など各種規定の制定状況の変化は?

まず、NGOの働く環境がどのように変化しているかを、就業規則をはじめとする諸規定の制定状況の経年変化を確認した。

結果を見る限り、各種規定は整備されつつある。特に、就業規則や給与規定、旅費規定といった基本的な規定は、年を追うごとにほぼ全ての団体で制定されている。しかし、多様化する働き方や働きやすい環境作りのひとつでもある育児・介護休暇規定では改善されつつあるものの未だ整備されている団体は80%以下で、ハラスメント規定は50%前後、更に対象とする団体が規模の大きな団体という前提でありながらも、退職金規定が52%に留まっている。

5年間で最も改善されたのは、個人情報保護規定である。職員の個人情報を保護する面は勿論のこと、日常的に寄付者等の個人情報を扱うことが多いNGOで、大幅な改善が見られたことは評価できる。しかし、未だ明文化されていない団体やそもそも定めていない団体が15%存在していることは、寄付者等との信頼に直結することからも早急に改善が求められる。特に2019年10月前後、NGO団体のホームページや寄付サイトに多発した不正アクセスなどを考えると、その対策とともに規定整備は早急に取り組むべきである。

図1 規定の整備状況の経年変化/出典 「NGOで働くとは」 3度のNGOセンサス調査から見るその実態

手当・福利厚生は改善傾向にあるが、未だ住居・家族手当に課題も

次に、基本給や通勤手当・社会保険・労働保険などといった基本的な手当・福利厚生はほぼ全ての団体で支給され、また残業手当や賞与(手当)、役職手当・退職金手当に改善傾向が見られた。一方で、団体の財政課題があることに対し理解はしつつも、扶養手当・家族手当や住居手当に至っては、40%前後の団体の支給に留まる。職員が少しでも安心して働けるように改善が求められる。

図2 給与・福利厚生の支給状況の経年変化/出典 「NGOで働くとは」 3度のNGOセンサス調査から見るその実態

NGOで働く人のバックグランド

これまで、働く環境の経年変化を概観してきたが、実際にそこで働く個人に焦点を当て、どのような変化があったかを確認する。

NGOでは、インターン・ボランティア・職員・役員に対し、有給無給・専従非専従という所属形態がある。ここでは最も所属が多い有給専従職員に焦点を当てその傾向を見ていく。まずは男女比率及び年代である。得られた個人データ数は異なるものの、男女比率は、3度の調査に大きな変化はなく、男性約35%、女性約65%であった。かねてより女性の働く数が多い業界といわれてきたが、その傾向は変わらないようである。また年代でも、男女共に30代が最も多く、その次に40代が続くことにも変化はなかった。

図3 性別・年代別比率の経年変化/出典 「NGOで働くとは」 3度のNGOセンサス調査から見るその実態

では、有給専従職員はどのような背景で採用されたのか。その問いに対して3度の調査結果は共に「欠員補充の為」が最も多く、平均した場合59%であった。次に「事業拡大のため」が40%、「定期採用」1%未満という結果であった。採用ルートも変化は見られず、主にPARTNER国際協力人材サイトや関係者からの紹介、インターン・ボランティアからの採用であった。学歴でも大学学部卒、国内外の大学院修士卒を合わせると90%を超えており、また専門分野も国際関係を中心にITや建築・家政・栄養・看護・経営・商学・外国語といった幅広い分野から人材が集まっているという傾向に大きな変化は見られなかった。

図4 最終学歴の経年変化/出典 「NGOで働くとは」 3度のNGOセンサス調査から見るその実態

平均在籍年数は6年、若手は2~4年で次のキャリアへ

有給専従職員が一団体に在籍する平均年数は6年であった。ただ、平均値だけではその実態が見えにくくなることから、図5と表2にその内訳を示した。図5を見ると、約半数が3~4年の在籍に止まっている。また表2の通り、20・30代の在籍年数が短く、3度の調査結果を平均すると、20代2.1年、30代4.1年で、それ以降年代が上がるほどひとつの団体に長く在籍する傾向にあることから平均在籍年数が6年となっている。20・30代の在籍年数が短いことは、キャリアアップといったポジティブな行動の結果なのか、それとも長期在籍ができない結果なのか、はわかっていない。ただ20・30代を含む全体の退職理由の傾向は変わらず、最も多いのが転職であり、契約満了、転居が続いた。

図5 在籍年数の内訳/出典 「NGOで働くとは」 3度のNGOセンサス調査から見るその実態

NGOで働く人の給与の経年変化

最後に、NGOで働く有給専従職員の給与の経年変化を見ていきたい。前述の通り、3度の調査結果は共に業界内において収入規模の大きい団体のデータであり、全体を網羅するものではない。またNGOで働く理由は給与だけではないが、「NGOで働く」ことを考える視点のひとつになると考えられ、その経年変化を確認する。

表3の通り、NGOでは男女共に給与は増加傾向にある。この数値を民間の給与水準と比べるために、内閣府が行う「特定非営利活動法人に関する実態調査」と国税庁の「民間給与実態統計調査」を提示する。その結果、NGO職員の給与は、NPO法人で働く有給職員よりは高いが営利企業で働く職員よりは低い傾向にあるということがわかる。

またNGOの給与特徴として、性別による給与差があまり見られないことがある。国税庁の調査では、性別による給与差が存在する一方で、NGOではその差はあまりなく、むしろ女性の給与水準が男性を上回っているのが特徴である。更に、NGOで働く女性と民間で働く女性の平均給与差はあまりないが、男性では給与に大きな差が見られる。この民間企業での男女格差自体に問題はあるが、この民間との差が男性にとって、NGO業界に転職、入職しづらいハードルであり、一方女性は、前向きに検討できる理由になっている可能性がある。その結果、NGO業界は女性が多く活躍する傾向にあると考えられる。

国税庁では、正規・非正規雇用のそれぞれの平均給与データを提示しているが、表の数値は、正規雇用者の平均給与額である。尚、2019年度の調査結果は、2020年度8月25日現在公表されておらず、その前年度の2018年度の調査結果を記入とした。また、内閣府では、2017年の平均給与のみデータが公開されており、その内、週28時間(7時間×4日)以上勤務する常勤職員の平均給与を用いる。


参考資料
・「NGOセンサス2019」(PDF:2,10MB)
・「NGOセンサス2017」(PDF:811KB)
・「NGOセンサス2015」(PDF:1.98MB)*「NGOセンサス」(2015・2017)は、立正佼成会一食平和基金「NGO切磋琢磨応援プロジェクト」の一環で実施しました。・内閣府(2018)「平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査」p.36
・国税庁(2019)「平成30年度分 民間給与実態統計調査」p.13

関連記事
NGOで働く―52団体・659名のデータから実態を見る(2018年7月発行)

 

JANIC正会員団体

FOLLOW US

Facebook
Twitter
Youtube
Email

条件別で記事を検索

CATEGORY

開催日

開催場所

募集締切

勤務地

雇用形態

開催日

訪問地域

商品カテゴリー

募集締切

リリース日

リリース内容