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- セオリー・オブ・チェンジを駆使した、現地パートナー団体との中期ビジョン作成
経営/広報・マーケティング2018.11.26
2005年にウガンダとケニアでエイズ孤児支援を行うため設立したPLAS。団体名のPositive Living through AIDS Orphan Supportには、エイズという困難を受け入れながら”前向きに生きていく(Positive Liviing)”アフリカの人たちと共に歩み続け、私たち自身もカッコイイ生き方を目指すという想いが込められている。 Photo by PLAS
“現地でのNGO活動”というときに、誰が活動する姿を思い浮かべるだろうか。NGOの活動形態は大きく3つに分けられる。
1. 日本人トップ 直営型
日本から派遣された日本人トップが現地プロジェクトの人事、財務、プロジェクト実施など全ての責任を持ち運営する。
2. 現地人トップ ブランチ型
雇用された優秀な現地人スタッフがトップとなり運営。人事、財務の権限はあるが、最終的な権限は日本事務所にある。
3. パートナー型
現地の団体にプロジェクト費用を委託し、パートナー団体が実施を担う。日本側は報告を受けること、事業立案、モニタリング、評価の一部に関わる。
ウガンダとケニアで活動するPLASでは、2014年に直営型からパートナー型へ移行した。現地の事務所の管理・維持コストを事業に充てより多くの裨益者に支援を届けたい、また現地の人のオーナーシップやリーダーシップに任せることで、知識、経験が現地に蓄積され、より効果の高い事業ができると考えたからだ。
現在、ウガンダとケニアでエイズ孤児を抱えるシングルマザー家庭の生計向上事業とライフプランニング事業を4つのパートナー団体と行っている。
カフェビジネスによる生計向上支援に参加するシングルマザー。 Photo by PLAS
パートナー型へ移行したことで、現地の人びとの経験値を活かした事業を展開できるようになった一方、ある課題感があった。それは、パートナー団体と個々の事業は成り立っていたが、各事業を貫くゴール像が明文化・共有されてなく、“何をいつまでに目指すのか”という大局的な視点で協働する難しさだった。
そこで、2017年に中期ビジョンをつくる際、各パートナー団体から出た“理想的な裨益者の変化”で共通するエッセンスをPLASの中期ビジョンに反映させる手法を取ることにした。
日本側でつくったビジョンをパートナー団体に提供する方法もあるが、“共につくる”プロセスから深い学びや相互理解が得られると考え、各パートナー団体と3日間の参加型プログラムを行った。パートナー団体の参加者は、代表、職員、理事、ボランティアなど最大15名。PLASからは理事2名と海外事業マネージャーの計3名が参加した。
3日間のプログラムでは、5年後を見据え、“誰のどのような変化を実現するか”と、そのための具体的な取り組みをつくることを目指し、プログラムは4つのステップと問いで構成した。
ステップ1. 地域の課題は何か? データとストーリーで理解する
まず、エイズ孤児に関する国際機関や政府の報告書を読み合わせ、私たちが取り組む社会課題の現状をデータから整理した。その後はパートナー団体とペアになり現場へ。事業に参加するターゲットグループ(裨益者)を訪問し、インタビューから課題を捉えていった。
裨益者のシングルマザー(写真右)を訪問。険しい山道をバイクで登ってようやく到着。 Photo by PLAS
ステップ2. 課題が取り除かれたとき、裨益者がどのような状態に変わるか
次に現場でそれぞれが見聞きした課題を整理し、2つの問いに答えていった。
①課題がどのような障壁(バリア)となって裨益者に影響を与えているか
②それが取り除かれたときにどのような状態になるか
これらから、裨益者の“理想的な変化(ビジョン・オブ・サクセス)”を描き出した。
例えば、保護者の経済的な困窮という課題があるとする。それにより子どもが学校を中退する、将来を計画できないといった障壁が生まれる。それらが取り除かれると、子どもは就学を続けて自らの意思で将来を選択していく。こうした‟理想的な変化像”を中期ビジョンとしてパートナー団体と共有することで、個々の事業が中期的なゴール像にどう貢献していくかという視点から立案できる。
一人の子どもの理想的な変化を描く。 Photo by PLAS
ステップ3. 課題が取り除かれたとき、裨益者がどのような状態に変わるか
さらに、裨益者の変化に影響を与える利害関係者(ステークホルダー)を洗い出す。
学校、医療機関、行政など、中でも裨益者に強く影響する存在を「ドライバー」と呼ぶ。てこの原理と同じで、どのドライバーへの働きかけ・協働によって効果的な変化が起きるのか議論した。
パートナー団体だけでなく、地域のボランティアや行政官など活動に関わる多様な人が参加した。 Photo by PALS
作成したPLAS中期ビジョンから抜粋。
ステップ4. パートナー団体と自団体の強み・課題は何か
最後に、パートナー団体とPLASの強み・課題を出し、中期ビジョンでどう活用・補っていくか議論した。
パートナー団体とPLASそれぞれの強みと課題を出していく。 Photo by PLAS
この4つのステップは、「セオリーオブチェンジ」に基づいている。セオリーオブチェンジとは、“どのように変化が起き、自分たちがどのようにその変化に貢献・影響できるかを説明した理論・システム”とされ*、Real Change for Real People(現実の人間の実際の変化)という考えを重視する。
事業で何を実施し、どのようにプロジェクト管理できるかという発想ではなく、対象となる地域や人びとの具体的な変化を起点とし、個人やその社会関係を具体的に見ることで、より効果的に変化が起きる働きかけを考える。複雑なストーリーを効果的に表現でき、活動に関係するステークホルダーと目指すべき方向・変化について協議・共有できる利点がある。
*セオリーオブチェンジには複数の定義があるが、ここではINTRAC(the International NGO Training and Research Centre、NPO 等の市民社会の組織強化を進めている英国の法人)の定義を参照した。
中期ビジョンをパートナー団体と明文化・共有できたことは様々な成果を生んだ。裨益者の課題をデータとストーリーから理解することで、取り組むべき利害関係者へのアプローチを明らかにでき、互いの改善点を率直に共有できた。PLASはパートナー団体に資金提供をする立場であるため、パートナー団体がPLASに課題を感じたとしてもそれを提議するのは容易でない。だからこそ、あえてそれを議論することでより良い協働関係を築くことも今回の中期ビジョン作成の目的とした。
また、パートナー団体も自団体の可能性に気づいていった。ある団体は、「今までいかに海外ドナーから資金を得るか考えていたが、組織力を高めて自国内での資金調達に挑戦したい」と語った。
協働の課題を洗い出すワークでは多様な意見がパートナー団体から出された。 Photo by PLAS
PLAS側にも変化があった。それは、パートナー団体を身近に感じるようになったことだ。パートナー団体とのコミュニケーションは海外事業マネージャー1名が担ってきたため、今回の機会を経て、他のスタッフ・インターン生がパートナー団体がどんなビジョンを描き、どんな人たちが現地でPLASと活動しているのがわかるようになった。中期ビジョンを完成後は、振り返りを兼ねてパートナー団体とビデオチャットでつなぎスタッフ間の対話の機会が生まれたり、中期ビジョン作成のプロセスを詳しく日本事務所に共有することで、「自分たちはパートナー型で活動しているんだ」と実感することができた。
パートナー団体スタッフと事業について対話を重ねる。 Photo by PLAS
国際協力の考え方に「ABCDアプローチ(Asset Based Community Development)」がある。“ないもの・欠けているもの”に目を向けるのでなく、その地域や人びとがすでに持っている“財や強み”に基づき活動するという考え方だ。今回のプログラムで参加者が“地域の財”を出し合う時間を設けたことで、豊かな土壌と農産物、自助活動、未来を担う子どもたちなど、地域やパートナー団体のアセットを意識するようになった。現場の課題は複雑で多岐に渡るからこそ、互いのアセットを活かす関係性を築くことがパートナー型において重要だと考えるようになった。
一方で、中期ビジョンのモニタリング方法までは議論できず、今後の課題である。中期ビジョンで描いたゴール像と、それに対する進捗・成果を評価する二軸をまわすことで、裨益者が直面する課題解決を加速させることができると考えている。
エイズ孤児支援NGO・PLAS
https://www.plas-aids.org/
参考資料
NGO海外スタディ・プログラム 平成28年度研修報告書 『インパクト評価を取り入れた事業立案と計画・実施の可能性』(PDF:964KB)
特定非営利活動法人エイズ孤児支援NGO・PLAS 巣内秀太郎
JANIC正会員団体
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