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[市民社会スペース vol.3 ]釜山民主主義会議の衝撃-SDGs ゴール16先進国の韓国から学ぶべき点

連載2018.08.16

アジア17カ国から240名を超えるNGO、政府機関、学識経験者が参加した「釜山民主主義フォーラム2018」。日本の市民社会からは筆者を含む5名が参加した他、JICAのガバナンス支援専門家も1名参加した。

誹謗中傷や脅迫、逮捕、銀行口座の凍結、ウェブサイト・事務所の閉鎖、活動許可の取り消しなど、社会課題の解決に取り組むNGO・NPOや活動家の活動を制限する“市民社会スペースの狭まり”が、世界各国で悪化の一途を辿っている。市民社会スペースの役割やNGOがこの問題にどう立ち向かうべきかを考えていく連載の第3回は、今年1月に釜山で開催された民主主義会議から、韓国社会の取り組みを紹介する。


政府の全面支援のもと開催された「釜山民主主義フォーラム2018」

2016年10月から始まった朴 槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の不正を糾弾する「ろうそくデモ」、2017年5月の文在寅(ムン・ジェイン)新大統領誕生、2018年2月の平昌オリンピックにおける南北合同チームの結成、南北首脳会談と米朝会談の開催など、近年、韓国における民主主義と平和構築の取り組みが目覚ましい。これに呼応するように、1月22日-24日に釜山で開催された「釜山民主主義フォーラム2018」では、“アジアおよび域外で平和・公正・包摂的な社会を推進する”というテーマが設定された。主催は、アジア民主主義ネットワーク(Asia Democracy Network:ADN)、アジア開発連盟(Asia Development Alliance:ADA)、民主主義共同体(Community of Democracies:CoD)。また、日本のJICAにあたる韓国国際協力団(KOICA)やホスト都市である釜山市の全面的な支援を得て開催された。

会議では、市民社会をはじめ、政府機関、国際機関、学識経験者が集まるマルチステーク・ホルダーの会合として、国際レベル、地域レベル、国レベルにおけるSDG ゴール16(平和と公正をすべての人に)の実施に関する進捗状況や方策が話し合われた。SDGsの進捗を各国が報告する自発的国別レビュー(VNR)や進捗計測ツールに関する経験や最新状況が共有され、2019年の国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF )においてグローバルな優先課題となっているゴール16についてあらゆる角度から議論された。

 民主主義を象徴する都市 釜山

注目すべきは、前年11月に就任したKOICAのMikyung LEE理事長によるスピーチである。釜山は、1960年4月19日に行われた大統領選挙の不正を糾弾するデモ(4.19革命)をはじめとして韓国における民主主義の歴史上極めて重要な場所であり、開発協力に関する重要な国際会議である「第4回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム」が2011年に開催されたことが紹介され、SDGs達成のためには平和・民主主義・人権の実現が不可欠、と強調していた。また、韓国政府としてODAを通じてゴール16に取り組むことを宣言し、アジア地域における主導的な役割を果たす意欲を見せていた。

スピーチを行うKOICAのMikyung LEE理事長。自身がドイツ政府から奨学金を受けて学んだ経験から、市民社会の関与や一人ひとりの市民への教育が、開発途上国における民主主義や社会的不平等の是正につながる、と指摘し、KOICAは今後も市民社会との連携を強化し、平和・民主主義・人権という核となる価値をもってゴール16の達成に取り組むと宣言した。

続く分科会では、ゴール16のそれぞれのターゲットに関する取り組みが議論された。法の支配(Rule of Law)に関する分科会ではJANIC事務局長の若林がモデレーターを務め、法の支配と司法へのアクセスの推進は市民社会への信頼・団結・活力によってなされること、我々が思っているよりもずっと人びとは変化に敏感であり、政府が民主的な体制であれば政治的意思を持つ指導者がその声を聴くこと、市民社会は政府に対して人びとの声を届けるスペースを確保すべきであること、裁判制度の充実や弁護士の増員など司法の強化は長期的に大きな影響をもたらすことなどが議論された。これらの分科会の成果物として、市民社会の視点からそれぞれのターゲットの進捗を測る指標(インディケーター)が提案された。

法の支配(Rule of Law)分科会でモデレーターを務めるJANIC若林事務局長(左)。

不十分なSDGs ゴール16のグローバル指標

SDGsのグローバル指標は国連統計委員会や機関間専門家グループによって2017年3月に策定され、7月に国連総会で採択されている。しかし、現状の指標では必ずしもそれぞれのゴールの進捗を適切に測ることができない、という考えが市民社会の間で根強く、本フォーラムの主催団体の一つであるCoDは、2017年9月にゴール16に関する補助指標を発表している 。

法の支配に関する“ターゲット16.3 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する”では、グローバル指標として“16.3.1 過去12か月に暴力を受け、所管官庁又はその他の公的に承認された紛争解決機構に対して、被害を届け出た者の割合”“16.3.2 刑務所の総収容者数に占める判決を受けていない拘留者の割合”の二つが策定されている。

しかし、これらの指標では、主に刑法に関わる裁判や救済措置へのアクセスしか設定されておらず、土地・家屋などの財産に関する権利や、移動や居住の自由などは想定されていない。CoDが策定した補助指標では、“その国において、法の下に不平等に扱われていると感じる人びとの割合”や“公式・非公式を問わず紛争解決機構にアクセスした人びとの割合と、それが公平であると感じた人びとの割合”など6つが提案されている。釜山民主主義フォーラムの分科会ではこれらに加え、“100万人当たりの警察官・裁判官の人数”“民事裁判および刑事裁判の平均所要期間”“拘留中の死亡数および自殺数”などが提案された。

補助指標について発表するCoDスタッフ。

最終日に採択された「釜山宣言」では、恐怖と暴力のない平和・公正で包摂的な社会を実現すること、民主主義と自由がなければ持続可能な開発はなく、持続可能な開発がなければ民主主義や自由もまたありえないこと、参加者がハイレベル政治フォーラムおよび自発的国別レビューの作成に積極的に関わっていくこと、各国政府が市民社会との連携を強化しゴール16および分野横断的な課題に対応していくこと、特に、KOICAおよびJICAと他の開発協力機関に対し、SDGsの効果的な実施に向けて市民社会と共に取り組むことを求めることなどを含む、17の行動が提起された。

市民社会スペースにおける政府の役割

このように、韓国では政府、開発機関、学術研究者、市民社会が一体となって平和と公正に関するSDGs ゴール16に取り組み、その価値を国内で尊重・実現させつつ、国際会議を主催することでアジア全域に広げていこうという意思が感じられた。余談ながら、筆者が滞在中に見かけた平昌オリンピックのCMでは“世界でもっとも平和なオリンピック”という標語が掲げられていた。

昨今、ゴール16全体のテーマである“平和と公正”に関連して、世界中で市民社会スペースの狭まりが指摘されている。南アフリカ共和国に本部を置く国際NGOのネットワークであるCIVICUSは、市民社会スペースについて、“開放的で民主的な社会の基盤であり、これが開放的であるときに、人びとは障害なしに組織化や参画、コミュニケーションを行うことができる。人びとによる権利の主張や、政治的・社会的構造に影響を与えることは、国家が自国の市民を保護する義務を果たし、結社の自由、平和的な集会の自由、言論の自由という3つの基本的な人権を尊重し、促進することによってのみ可能となる”と説明する。

市民社会スペースを開放的にするためには、政府がしっかりと情報を提供し、市民が自発的にアクセスし、それぞれの関心に合わせて自由に議論をすることが必要である。

日本がゴール16先進国になるために

行政文書の秘匿・改竄・廃棄、行政官による虚偽答弁、公金の不透明な使用、政治家と民間企業の癒着、市民活動家の不当逮捕・拘留、国際条約の不履行など、SDGs ゴール16に関して日本社会が抱える課題が数多く指摘されている。

こうした課題について、これまで日本のNGO関係者が築き上げてきた政府との対話関係(NGO・外務省定期協議会、NGO-JICA協議会、財務省・NGO定期協議、環境省と環境NGOの意見交換会、各種審議会や円卓会議、テーマ別の意見交換やコンサルテーションなど)をもとに議論しつつ、ゴール16について現状の評価と目標達成のための行動計画を策定することを提案したい。そのためには、日本の市民社会が取り組んでいるゴール16に関する動きを横串にし、それぞれの進捗を測る必要がある。同時に、政府に対してより一層の予算措置や推進体制の強化を働きかけていく必要がある。

前述の通り、2019年は、国連HLPFではゴール16がグローバル優先課題となっており、また、日本政府が初めて議長国を務めるG20サミットが大阪で開催される。2017年のハンブルグG20サミット首脳宣言で“アジェンダ2030(SDGs)の実施について、相互に学びあう”と明記されている通り、日本政府は「ゴール16先進国」とも言うべき韓国社会の動きに学び、より透明性が高く、開かれた議論が行われる社会の構築に向けて、市民社会スペースの確保を約束すべきである。

連載 市民社会スペース
vol.1 なぜNGOにとって市民社会スペースが重要なのか

vol.2 欧州の動向から考える-SDGsは市民社会スペース問題解決の鍵となるか?

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