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REPORT

【イベントレポート】国内外の助成機関による「支援の現地化」への対応から学ぶ(支援の現地化ワーキンググループ勉強会)

JUN.11.2024

JANICには、正会員が中心となり、グローバルな社会課題解決のグッドプラクティスや課題を共有し、組織の経営や活動の強化を目指すワーキンググループという仕組みがあります。このうちの1つ、「支援の現地化」ワーキンググループでは、2021年度より人道支援の「現地化」について、参加メンバー間で議論を深め、具体的なアクションを検討してきました。

 このたび、海外と日本の助成機関の「現地化」への対応を学び、メンバーで意見交換を行う勉強会を実施しましたので報告します。

開催概要】

日時2024年4月17日(水)13:00-15:00                 
開催方法・場所対面:日本赤十字本社(東京都港区)、オンラインのハイブリッド開催
目的拡大、長期化する人道危機に対し、効果的で持続可能な現地組織主導の支援を実現するためのローカリゼーション(支援の現地化)推進に向け政府をはじめとしたドナーとNGOの双方が共通のビジョンを持つこと。
(1)USAID等の先進事例と日本の助成機関の「現地化」に対する考え方を対比し、NGOは現地化の推進に向けて、今後ドナーとどのような取り組みを推進していけるかを議論する。
(2)「現地化」先進事例について知り、目指すベンチマークについて意見交換する。
(3)「現地化」の理想と現実として、実際にはどのような困難があるのか、それに対してどのような解決策があるかをお互いの経験から学び合う。
対象「支援の現地化」ワーキンググループメンバー及び国内外で緊急時、開発等の人道支援事業に従事する団体
アジェンダ(1)海外の助成機関の「現地化」への対応/桑名 恵氏(近畿大学国際学部教授)
   オーストラリア赤十字社事例紹介/八尋 絵美氏(日本赤十字社)
(2)日本の助成機関の「現地化」への対応
   /樋口 博昭氏(ジャパン・プラットフォーム海外事業部長)
(3)質疑応答、ディスカッション
参加人数56名(対面7名、オンライン49名)

【レポート】

海外での現地化の動き

まず、「現地化(ローカライゼーション)海外ドナーの動向から」と題し、近畿大学国際学部教授の桑名 恵氏に講演いただきました。人道支援の改革イニシアティブである「グランドバーゲン」の優先課題(workstream)の2つ目「現地およびその国で対応に当たる人々・団体に対してより多くの支援や資金ツールを振り分ける(More support and funding tools for local and national responders)」を振り返り、支援の現地化を進めるにあってドナーやNGOが注意すべき5つの点について解説がありました。

 1)現地アクターの能力強化を複数年にわたって行うこと

 2)管理上の障害を削減すること

 3)現地調整メカニズムを尊重・支援すること

 4)25%を直接現地組織に拠出すること

 5)現地プールファンドなどの資金スキームを確立すること

続いて、OECD(経済協力開発機構)が発表した報告書をもとに、OECD-DAC(開発援助委員会)メンバーによる「現地主導の開発(locally-let development)」への取り組み状況が紹介されました。また、カナダ政府、アメリカ政府(USAID)、国際NGO(Care International)が「現地化」をどのように捉えているかついて、その解釈は幅広いものの、おおよそ「現地への権限移譲」、「現地アクターの能力向上」の2つに大別されることが確認されました。

さらに、先進的取り組みとして、イギリスの「スタート・ネットワーク(Start Network)」について紹介がありました。この団体は、現地化と支援のための新しい資金の流れを作ることを目的とした人道支援団体のネ ットワークです。意思決定などの現地への権限移譲、予測可能な危機への先行した資金投入、イノベーション促進などが特徴的です。

オンラインで登壇する桑名 恵氏(近畿大学国際学部教授)

もう1つ、アメリカ政府の援助機関である「アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)」は、2022年から明確な現地化の方針や数値目標を掲げており、現地組織への直接的な資金拠出割合が増え、権限の委譲を重視しています。一方で、人員や手続きの対応の遅れなども指摘されています。

また、国際NGOが果たすべき役割についても解説がありました。前述の「スタート・ネットワーク」の調査によれば、国際NGOには、1)学習や組織強化の機会提供、2)管理費の強化の2点が期待されています。

まとめとして桑名氏は、現地化の理想は「権力の委譲」であるものの、システムを変革することだけに着目するのではなく、事業実施や長期の能力開発・強化に対して指標をもって進めていくことで、改革につながるのではないか、と述べました。また、ドナー側の方針にも、現地化の考えを入れ込むことで「グランドバーゲン」への貢献につながるのではないか、と指摘されました。

続いて、「オーストラリア赤十字の現地化取組みの事例」と題し、日本赤十字社の八尋 絵美氏より発表いただきました。2023年8月にオーストラリア政府が新たな国際開発指針を発表し、同時に 「現地主導の開発に投資する(Investing in Locally-led Development)」旨の談話が発表されました。これは、国際NGOをはじめとする開発パートナーに向けて発信されたものです。オーストラリア赤十字社は、オーストラリア政府の行う開発協力事業のパートナーの1つです。オ―ストラリア政府と8年間におよぶ開発協力事業を行うなど、複数年度支援に注力したり、汚職防止・子どもの保護・性暴力への清廉性に対して厳格な管理を求められるなど、コンプライアンスを強化し、リスクを共有しています。

オーストラリア赤十字社は、すでに2019年の改革によって100人いた本部職員が30人にまで削減され、その代わりに現地赤十字社のスタッフ雇用のための人件費に充てられました。現在、オーストラリア赤十字社から派遣されている駐在員はいない、とのことです。赤十字本部に専門のコンサルタントを雇用し、各事業地を出張することで現地の赤十字社を支援する体制を採っています。これまでの「巻き込む」という考え方から、「協働する(=現地赤十字社にオーナーシップを渡す)」という考え方に変化すると同時に、能力アセスメントを実施し、事業と並行して組織強化も行われました。

ドナーとしてのオーストラリア政府にはいくつかの特徴があり、不測の事態に対する柔軟な期間延長に加え、事業管理費や能力強化等への資金拠出の使途にも柔軟性があります。例えば、太平洋諸国および東ティモールを対象としたエルニーニョ現象によって引き起こされる旱魃やサイクロンに対応するための「予測的行動(anticipatory action)」を行うために200万豪ドル(約2億円)規模の「エルニーニョ基金(El Nino Fund)」をオーストラリア赤十字が受託しています。こうしたファンドは、先行的な行動に対して予算をつけているという点で先進的な取り組みだと言えます。

勉強会は対面とオンラインのハイブリッドで開催

国内での現地化の動き

続いて、「日本の助成機関の『現地化』への対応」と題し、ジャパン・プラットフォーム(以下、JPF)の樋口 博昭氏より発表していただきました。

JPFの任務は、日本のNGOへの資金の資金分配であり、現在、海外で16、日本国内で5つのプログラムが進行中です。財務に関しては、近年はほぼ政府系資金が占めるようになってきましたが、2011年の東日本大震災発生時には民間資金のほうが大きかった、とのことです。

JPFによる現地化推進の背景として、人道危機の増加や全体予算の減少傾向もさることながら、国際的な潮流に歩調を合わせることも重視しており、現地のガバナンスの仕組みが強化されることで今後の複合的リスク環境に自ら対応できるように支援者として支えることを目指しています。特に、国際NGOには、現地のニーズに適した支援が問われています。

樋口氏からは、「スタート・ネットワーク」や「NEAR(Network for Empowered Aid Response)」というグローバルサウスの市民社会組織による援助システムを考えるネットワークによるパフォーマンス指標をもとに、JPF としてのフレームワーク立案の必要性を検討する時期に来たと認識している、との説明があり、「インパクト指標(Impact Indicator)」から「主要パフォーマンス指標(Key Performance Indicator)」まで細分化したものを、1)パートナーシップ(Partnership)、2)能力(Capacity)、3)参加(Participation)、4)資金(Funding / Finance)というの4つの部門で、JPF加盟団体との合意を踏まえて作成できないかと構想している、とのことです。

ただし、「25%を直接現地組織に拠出すること」という目標について、JPFは「日本のNGOを介した支援を前提にしている組織」であるために、出発点が違うこと、また、案件審査で日本の関係者の主体性を求めることが 「現地化」と逆行していると感じていること、他方、紛争やコロナなどを背景に、プロジェクトの実施形態が現地提携団体を通じて支援するという事例が増えてきており、ときには孫請けの事例も見受けられるため、どこまで支援ができるのかは慎重に検討する必要がある、と述べられました。

勉強会の様子

最後に、JPFの目指す現地化の課題と現状についてまとめていただきました。まず、現地提携団体への管理費の問題を整理する必要があります。現状では、JPF加盟団体の管理費は認められていますが、現地提携団体の管理費はそうではありません。ここをどうするかは大きな議論となっています。次に、「投入の議論」です。現地提携団体にどれだけ投入したかのみに着目すると議論が広がらないので、結果ベース(outcome based)の議論に発展させるべき、と樋口氏は提案します。JPFのスコープは緊急人道支援であるため、 どうすれば現地で必要な資源が必要な場所に行くのかを考えるのも「現地化」の一環だと考えています。「現地化」 は目的ではなく手段であり、支援を終えるという「出口戦略」中に「現地化」という手段を取り入れることが望ましい、と指摘されました。

JPFは、現在の助成制度枠組みの中で、加盟団体を通じて 「現地化」を促進しており、「現地リソースの能力強化を含む案件形成」や「援助協調を促進し現地政府の負担軽減を図る(=現地調整メカニズムへ参加)」などの事例があります。

今後は、JPF加盟団体とのフレームワークを合意し、管理費などの資金課題をどう乗り越えるか、また、現地組織自体を議論に参加させるためにはどうすればよいか、という視点も考えたい、と展望を共有いただきました。

その後、オンライン参加者も含めて活発な質疑応答と意見交換が行われ閉会となりました。


支援の現地化ワーキンググループではメンバーを募集中です。

ご関心のある団体さまはこちらをご参照の上、JANICまでお問い合わせください。

現在のメンバー

  • AAR Japan
  • 国際協力NGOセンター(JANIC)
  • ジャパン・プラットフォーム
  • 世界の医療団
  • セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
  • 特定非営利活動法人ジェン
  • 日本赤十字社
  • 特定非営利活動法人パレスチナ子どものキャンペーン
  • 特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン
  • Piece of Syria(ピースオブシリア)

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