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- 【活動報告】債務と格差縮小への対処が急務:南アフリカG20首脳宣言を受けて
THINK Lobbyライブラリー, おすすめ記事, お知らせ, 提言 2025.11.28

特定非営利活動法人国際協力NGOセンター
シニアアドボカシーオフィサー 堀内葵
11月22日、G20サミット首脳会合が南アフリカ共和国のヨハネスブルグで開催され、日本からは高市総理大臣が出席、アメリカのトランプ大統領、アルゼンチンのミレイ大統領、中国の習主席、メキシコのシェインバウム大統領、ロシアのプーチン大統領が欠席するなか、初日の冒頭に首脳宣言(Leaders’ Declaration)が発表されました。
首脳宣言では、G20首脳会合が初めてアフリカ大陸で開催されたことを強調し、災害リスク軽減、債務の持続可能性の確保、公正なエネルギー移行に向けた資金動員、重要金属の活用、包摂的な経済成長、雇用の確保、格差の縮小、AI・データガバナンスなど、多様な課題について言及されています。
本日(11月28日)時点では、日本の外務省ウェブサイトにG20首脳宣言の日本語仮訳は掲載されていません。
今年のG20サミットは、複数の意味で大変重要な位置付けとなりました。
まず、史上初めてアフリカ大陸でG20サミットが開催されたという点、そして、加盟メンバーの中で最後に議長国を務めた南アフリカ共和国が強力なリーダーシップを発揮したという点です。議長国就任にあたって掲げられた「連帯・平等・持続可能性」という3本柱はあらゆる分野の会合で取り上げられ、首脳宣言にも反映されました。
また、2022年のインドネシア、2023年のインド、2024年のブラジルに続き、いわゆるグローバル・サウスと呼ばれる南側諸国がG20の議長国を4年連続で務める最後の年となりました。昨年のブラジル議長国では、「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンス」が設置されたことが話題になりましたが、今年は、シリル・ラマポーザ大統領からの委嘱を受けて、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏をはじめとする「グローバルな不平等に関する独立専門家臨時委員会」が11月4日に報告書を発表し、様々な側面の不平等を減らす上で極めて効果的な政策を導入するよう提言しました。拡大するBRICSの一員であるこの2か国が、飢餓・貧困・不平等という世界的な課題に意欲的に取り組む姿勢が伺えます。G20は、2026年のアメリカ、2027年のイギリス、2028年の韓国というように、今後、しばらくは北側諸国(グローバル・ノース)による議長が続くこと、そして、多国間協調や環境・気候変動、ジェンダー平等・多様性、持続可能な開発などに後ろ向きな姿勢を見せるアメリカが次期議長国を務めることから、それまでにどれだけの成果を出せるかが注目されていました。
さらに、G20が特に重視する債務や国際租税、国際財政構造などの経済関連課題について、2025年7月の第4回国連開発資金国際会議の成果を受けて開催されるG20首脳会合である、という点です。これまで開発資金の主要な貸し手が集まっていたG20での債務再編の議論をどのように国連主導の場に移すことができるのか、世界中の市民社会が働きかけを続けていました。
歴史を振り返ると、2005年7月、イギリスで開催されたG8サミットでは、アフリカ諸国の債務が主要な議題となりました。世界11都市でアフリカ支援や債務救済を求めるコンサート「LIVE 8」が開催され、「貧困を過去の歴史に(Make Poverty Hisotry)」と銘打ったキャンペーンも世界中で実施され、南アフリカ共和国で初の黒人大統領を務めたネルソン・マンデラ氏のスピーチが多くの人の共感を呼びました。G8サミットでは債務削減が合意されましたが、20年後のいま、アフリカ諸国をはじめとする多くの国で教育や保健などの基礎社会サービスよりも多くの金額が債務返済に充てられています。
G20は、世界中の多くの人々が直面する開発における深刻な課題を認識し、途上国の債務が成長や貧困対策を損なうことを認識しましたが、市民社会が求める政策を実現しているとは言えません。首脳宣言では、債務に対処するための「G20共通枠組み」を「予測可能かつタイムリー、秩序ある形で、協調的に、さらに強化する」と述べています。しかし、「ジュビリーUSAネットワーク(Jubilee USA Network)」のエリック・ルコンプト事務局長によれば、現在、世界中で20数か国が債務危機に陥っているにもかかわらず、共通枠組みの設置から5年でわずか4か国に対してしか債務処理を提供していません。
G20は、「市民社会開発資金メカニズム(Civil Society Financing for Development Mechanism)」などの多くの市民社会が求めるように、国連のもとで公正な交渉を行う「ソブリン債務に関する国連枠組み条約」の創設を後押しすべきです。
G20首脳会合に先立つ11月19日、ヨハネスブルグ市内の主要な建造物へのプロジェクション・マッピングが実施されていました。「グラスゴー行動チーム(Glasgow Action Team)」による、グローバルな格差を縮小するために超富裕層への課税を強化し、債務を削減するようG20に求めるキャンペーンの一環です。ヨハネスブルグ市庁舎にもこのメッセージが映し出されていました。

また、超富裕層自身が運営する「パトリオティック・ビリオネアーズ(Patriotic Billionaires)」という団体も、超富裕層への課税を求めてプロジェクションマッピングとドローンによる映像を公開しています。
「グローバル経済正義のための人々のサミット(People’s Summit for Global Economic Justice)」を主催した「格差と戦う連合(Fight Inequality Alliance)」のジェニー・リックス氏は、G20首脳会合に先立ち「不平等は偶然ではありません。それは不適切な政策選択と権力の乱用によって形作られた選択なのです。世界経済のルールは1%によって、1%のために書かれている。街頭で抗議する若者から世界中で立ち上がるコミュニティまで、私たち99%は税の正義、公正な公共支出、説明責任を求め、そのルールを書き換えている」と述べました。
2024年のブラジル議長国で議論の焦点となった超富裕層への課税と格差の縮小というアジェンダは、残念ながら2025年の南アフリカ議長国において十分な前進が見られませんでした。首脳宣言では、「我々は、持続可能な経済発展への道としての平和を再確認するとともに、拡大する経済的不平等や不安定性を含む地球規模の課題に対処する上で、国際協力と多国間解決策の重要性を再確認する。」(パラグラフ84)とだけ述べられており、「グローバルな不平等に関する独立専門家臨時委員会」による報告書で提言された「世界的な不平等を評価・監視する常設国際機関の設置」については言及がありません。
報道の通り、ヨハネスブルグで開催されたG20サミット首脳会合に、次期議長国を務めるアメリカのトランプ大統領は欠席し、正式な引き継ぎが行われないまま現在に至っています。首脳宣言は「我々は、2026年にアメリカが議長国を務める下で協力し、2027年にはイギリスで、2028年には韓国で再び会合を開くことを約束する。」と結ばれている通り、アメリカ議長国下でも引き続き、首脳たちによる協力とリーダーシップが求められています。極端な富の格差は社会を不安定にし、深刻化する気候変動への対処は一刻の猶予もありません。市民社会もCivil20(C20)としての政策提言活動に加えて、広範な社会運動との連携や、各国政府への直接的な働きかけを強化する必要があります。
JANIC正会員団体
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