『現地に還元する心』
お話をうかがったスタッフの方
本部事務局長 上野貴司さん
上野さんからのメッセージ
「ERECONにとって一般のみなさまから募金という形でご支援を頂くことは、発展途上国における環境保全活動に寄与されたいというお気持ちを預かることだと考えています。"NGOサポート募金"ではWeb上でERECONの活動を確認していただき、募金がどのように活用されるのかをご理解いただいたうえでご支援頂けるのだと思います。気持ちのこもった募金を有効に活用させて頂きたいと考えます。募金は主に発展途上国の土壌修復や環境保全の必要性の高い地域において、植林活動、有機農業の普及指導、地域住民を対象とした環境保全の理解を促すための啓蒙活動などの一部として使用させて頂いております」。
自然環境との調和を目指し、アジア諸国において農業の普及や都市的開発、環境教育啓蒙活動などの活動を行っている団体、環境修復保全機構(Institute of Environment Rehabilitation and Conservation <ERECON>、以下ERECON)。今回は本部事務局長の上野貴司さんにお話を伺いました。
研究の成果を現場に
ERECONが設立されたのは2000年。その始まりは研究グループ活動からでした。「その当時タイ国各地では、大学などのタイ国内外のさまざまな研究者・研究機関が、環境分野や農業分野の研究を行っていました。例えば、タイ東北部では深刻な塩害(地中の塩類が地表に集まる塩類集積により、作物の栽培が困難になる農業被害)が社会問題としても注目され、研究対象として取り上げる研究者も多くいました。東北部ではかつて大規模な森林伐採による農地が開拓され、農業を主産業とする地域であるため、農業が出来なくなった住民の貧困は急速に進み、生き延びるために自分の子どもを売る選択をするしかなかった親の話なども聞かれました。研究者・研究機関はこの地域を対象とし、環境・農業・社会科学などさまざまな分野における研究を行ってきましたが、ほとんどの研究者にとってはこのような深刻な地域の問題もただの研究対象でしかないのです。一人の研究者としてこの地域に入った私もそうだったのですが、研究結果を持ち帰って論文にまとめ、学会発表や学生への教育にフィードバックする、ここまででした。しかし、研究活動の過程で地域を深く知るにつれて、研究成果を何らかの形で、現地で生活する人たちに還元していきたいという思いが募り"研究した成果を現場に還元しよう"という志を持った研究者が集まってERECONを立ち上げ、タイ国を中心とした活動を広げてきました。
環境と共に生きること
ERECONの軸となっている活動は環境修復保全、自然資源利用、環境教育啓蒙の3つです。
環境修復保全活動では、タイ国での土壌保全の調査研究や持続可能な森林管理システムの推進、さらに有機肥料の活用による化学肥料の削減にも取り組んでいます。
また自然資源利用活動では、国内での環境保全型(ペレット)堆肥の研究・開発を行うとともに、タイ国やカンボジア国などの活動国の農地での施用を試みています。また、生物起源防虫液(化学農薬の代わりに施用することで特定の害虫などに効果があるとされるもので、果物の残渣、ハーブ、唐辛子、木炭酢などを利用して作成される)の施用なども支援しています。
環境教育啓蒙活動では、タイ国やカンボジア国において現地農家や小学生を対象に環境保全の重要性を啓蒙するワークショップの開催を行うとともに、現地住民の中から他の住民への指導的役割を担える人材を育成することを目指し、現地農家を対象とした有機農業指導者育成研修や、小学校教員を対象とした環境教育指導者育成研修などを展開しています。また、国内においては国際協力活動の現場において、国際環境協力の分野で活動国におけるファシリテーターの役割を担える人材養成を目指した研修を行っています。さらに現地で環境教育啓蒙活動に使用できる教材開発を行い、最近ではタイ語・クメール語・英語・日本語を使用した持続的農業に関する書籍を出版するなど出版事業も積極的に行っています。
どの活動も都市的開発と自然環境との調和のためには欠くことができない活動で、これらの活動により自然環境保全と人間の営みとを繋ぎ、持続的発展を目指しています。
現地農家による堆肥づくり支援
コツコツ続ける大切さ
ERECONの活動の中で一番力を入れているものが環境教育啓蒙活動、つまり環境保全の重要性を現地の方々へ伝えることです。この活動は成果が目で見て分かるものではなく、活動に費やした時間やお金の量が成果に直結するとも限らないです。しかし、現地に生きる人の目線を持ち続け、ある部分では忍耐力も使い、コツコツと活動を続けて行くことが大事であると上野さんは言います。
「環境保全の重要性を現地の方々に伝え始めても、すぐに成果が見えることはありません。早急に成果を求めるのではなく、我々の活動の背景にある理念や、現地の環境破壊の現状を知って頂き、自分たちの置かれている状況をよく理解してもらうことが大切です。そしてその次に現地の方々が自主的に環境保全に向けた何らかの行動を行うこと、その行動に我々が気づくことが大切になります。現地農家を対象とした有機農業の普及活動の時に、『これは環境にとてもいいからぜひやってみましょう』と言うと、うんうんとうなずいてくれますが、それをきっかけにすぐに有機農業に転換できる農家の方はほとんどいません。現地農家は農業で生計を立てているため、急に有機農業に転換するリスクは背負えないのです。有機農業は時間をかけて土を作り、その土で安全で栄養価の高いおいしい作物をつくることに重点を置きます。一方で、化学農薬を使った栽培は、短い期間で沢山の収穫を得ることも可能です。現地農家は有機農業への興味や環境保全活動の意味を理解していても、化学肥料・化学農薬を使用した農業から有機農業への転換に躊躇します。この転換を成功させるためには、実際に有機農法を実践してもらうことと、有機農産物生産の商業的なメリットを伝える必要があります。
我々は現地農家に有機農業への転換のメリット・デメリットとも両方伝えるようにしています。メリットとしては、有機肥料として使用できる堆肥の材料となる家畜糞尿や野菜や果物の残渣などは、現地で身近に存在しているので、肥料購入コストを削減できること。化学肥料の価格は高騰しているので、費用購入費が大きな負担になっている農家の方には十分なメリットとなります。また認定を受けた有機農産物は、販売する際に付加価値が付くという国際的な動きについても紹介することがあります。安全な生産物は高価格で取引されるということもメリットとなります。一方、デメリットは農業労働時間が増えることです。化学肥料のもつ肥料成分の安定性や施用の効率を有機肥料で代替するためには、化学肥料使用時と同程度以上の農業労働力を投入しないとなりません。このようなメリット・デメリットを両方伝えたうえで、有機農法をどのように導入するのかを決めるのは現地農家です。最初はごくわずかの農家が有機農業に取り組み始め、その様子や成功例を見て周りの農家も始めていくという形が多いです。そして成果の一つと考えられる現地農家による主体的な有機農業の取り組みが、目に見え始めるのには2~3年かかります。とても長いスパンではありますが、コツコツ続けていけば成果となる変化が必ず現れると考えています」。
住民参加による荒廃地における植林活動
次世代につなげること
現地農家の方々に有機農業技術指導の支援を行うだけでなく、ERECONでは子どもたちへの環境教育啓蒙活動にも力を入れています。「タイ国の農村部では小学校への進学率は毎年高くなっていますが、小学校卒業後に農業に従事し始める子どもたちも少なくありません。そんな次世代の農業を担う子どもたちを対象に、ERECONでは小学校において有機農業や環境保全についての理解を促すワークショップを行っています。小さい頃から環境保全を目指した有機農業の実践経験があると、将来農業を始めたときに有機農法による栽培に取り組みやすくなると思います。まだ小さな子どもたちは体を動かしながら授業を楽しんでいます。難しい仕組みが分からなくても、小さい頃に楽しんだ経験は大人になってもおぼろげに覚えているものじゃないですか。我々は子どもたちを対象とした活動では、楽しみながら有機農業や環境保全についての理解が深められるように心がけています。
小学校での活動は相乗効果もありました。小学校で実践した有機農業の授業の話を子どもたちが家族に話し、家族が有機農業に興味を持ってくれました。こうした子どもから親世代への普及の効果はとても大きいです」。そう上野さんは笑顔で話してくれました。
小学生・小学校教員を対象としたワークショップ
小学生と現地農家と協働での堆肥づくり支援
インタビューを終えて
研究と研究成果の現地へのフィードバックがリンクしている団体であり、現地住民と常に近くにいようとしている団体のように感じました。それは、事務局長の上野さんが、 「タイに戻ると、故郷のようにホッとします。」と話した言葉にも表れています。タイのまだ進学率の低い地域で、 教育の支援をしつつ、学校で有機農業を教える。楽しみながら得た知識は強い。化学肥料など使わずに、自分の生活の中で健康な食べ物を育てることができることを実践から学び、次世代へ伝えることができると思います。1歩ずつ、相手のペースと自分のペースのバランスをとり、土と生きる関わり方を楽しみながら続けること。それが共に生きることなのだと感じました。
(JANICユース 広報チーム 野元 由実)
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広報チーム 野元 由実
マネジメントチーム 小松崎 瞳(編集)

