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開発協力大綱案へのパブリック・コメントを提出しました

MAY.10.2023

JANICはこれまで、NGO・外務省定期協議会やセミナーの開催、また「開発協力大綱改定に関する市民社会ネットワーク」の協働事務局として、開発協力大綱の改定に市民社会の声を届けてきました。

4月5日に政府より新たに公開された「開発協力大綱」の案に対し、5月4日まで受け付けられていた意見の公募(パブリック・コメント)を提出しました。

開発協力大綱案への意見

2023年5月4日
特定非営利活動法人国際協力NGOセンター

1. 開発協力大綱案(以降「大綱案」)は、短期的な状況への対応が中心で、歴史観、世界観を欠いている印象が否めない。中身も自国の主張に留まり、結果として時代の潮流にあっておらず、開発協力本来の趣旨(国境を越えた共生社会の創造)に沿ったものにもなっていない。

  • 「大綱案」の開発協力の定義が未だに「政府及び政府関係機関による国際協力活動」と定義され、「ODA大綱」から「開発協力大綱」に変更した趣旨が生かされていない(一方で外務省ウェブサイトには、開発協力は民間部門も含めたオールジャパンの協力の記述あり)。定義については、民間部門、地方自治体等の多様なセクターが含まれておらず、それぞれの持ち味、特色を生かした開発協力の定義に変更すべである。
  • 全体として、相変わらず、援助する側と援助を受ける被援助国の2元的な対立軸での大綱になっており、途上地域の著しい発展を踏まえ、水平的な協力、共創・共生、現地主導の開発等、世界的な開発協力の潮流、開発途上地域の現状を踏まえた内容になっていない。
  • 【対案】本意見書1~3の指摘に基づき、全体を流れる大綱の思想、トーンに関わる重要な部分であるため、必要な修正を提案する。

2. 開発協力は、「人びとの暮らしの向上」、「人間の安全保障」といった、本来の意義を中心的に据え、国益の達成は、中長期な効果として達成されるものである。

  • 「大綱案」では、依然として、我が国の国益の実現に貢献、戦略的な活用が前面に出ており、短期的な外交目的や国益の達成のための手段として「開発協力」を扱うことは慎むべきである。ある意味、国益は外交を考える重要で、当然な視点ではあるが、あえてそれを全面に出すことのマイナス面も考慮すべきである。
  • 【対案】仮に国益の実現を出すとしても、品格が感じられる、控えめな書きぶりに変える。

3. 何のために開発協力大綱を改定するのか、明確でない。

  • 開発協力の目的が「人びとの暮らしの向上」だとすれば、開発途上地域の人びとや、NGO、被援助国政府の声を収集、分析した形跡がない。何が現状の大綱では問題のなのか。現地の人びとの声や、環境の変化を踏まえた現状の開発協力の実態を分析する、いわゆるギャップ分析がなされていない。「改定のための改定」になっている。何が現状の「大綱」だと問題なのか、記述を求める。
  • 【対案】現状の環境の変化に基づき、現行の「大綱」では何が問題なのか、どんな支障が生じているのか、ギャップ分析に代わる記述を入れる。

4. 全体評価:市民社会等の指摘を踏まえて改善あれば、後退もある。「大綱案」は、「国家安全保障戦略」に大きく影響を受けており、国際協力の戦略的な活用、新たなOSA設置の出発点になっている。

  • 「大綱案」は、開発教育や非軍事原則の維持等は市民社会からの指摘を踏まえて改善され、「人間の安全保障」の理念等を全面に打ち出して評価できる面もある。一方で、後退した面もあり、安全保障、国益の実現等の基本的な姿勢は変わっていない。
  • 「大綱案」の基本的考え方のベースになっているのが、2022年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」であり、国際協力の戦略的活用等、開発協力大綱の性格を決める決定がすでにその文書でなされている。また安全保障上の能力向上のための新しい協力の枠組みを設けるとあり、新たなOSAの設置につながった。
  • 【対案】本来は、「安全保障戦略」と一体化するのではなく、独立した位置づけの「大綱案」とし、「報告書」からの後退部分は、もとに戻す。

5. 「大綱案」のⅢ実施 にある、「市民社会の連携」は、有識者懇談会の「報告書」からも大きく後退し、改善を求める。

  • 「報告書」では13行記述されているが、「大綱案」ではわずか6行である半分以下削減されている。字数だけではないが、報告書にある、重要な記述、例えば、「現地NGO支援スキームの拡充」、NGOの特徴である「ODA事業の持続性や効果を高める」等が削除されている。これらの復活も含めて、記述を見直していただきたい。
  • 「NGOを開発協力の戦略的なパートナーとして新たに位置づける」とあるが、
    これまで言われてきた「対等なパートナー」、「重要なパートナー」とは何が違い、何を意味するのか、具体的な戦略的なパートナーを方向性を明示していただきたい。
  • 【対案】以下を付加、修正をお願いしたい。
    ① 「戦略的パートナー」の意味すること及び、政府からみて、パートナーとして、どのような協力態勢を期待するのか、明確にする。
    ② 国内外のNGO支援スキームの拡充をはかる
    ③ 我が国の中期的な戦略として、日本のNGOの基盤・能力を強化し、NGOを通じた支援額の拡大は、新大綱案が適用される期間中にOECD-DAC平均を目指す(本意見書6と連動)。
    ④ ODAの透明性の確保、アカウンタビリティを強化し、同時に市民社会をはじめとするステークホルダーの参加によるモニタリング、評価を強化する。

6. NGOを通じた日本のODAの比率は世界的にも極めて低く、改善を求める。

  • OECD-DAC 2020年の統計では、日本はわずか1.3%であり、単純平均でも19.4%となっており、極めて低く、改善を求める。
  • NGOを通じたODAの比率を高めると共に、同時に、NGOがより質の高い支援能力の向上、ガバナンス強化、資金調達力の向上等の、NGO全体の基盤強化支援を行っていただきたい。この点も「市民社会の連携」に含めていただきたい。

7.「人間の安全保障」と「人権デュープロセス」の具体的な記述を求める。

  • 「人間の安全保障」の理念を全面に出し、「大綱案」で8回も言及されていることは評価できるが、その意味するところを明確にすべきである。一般的に「人間の安全保障」の概念は幅広く捉えられがちであり、「大綱案」で意味する「人間の安全保障」を定義、もしくは、その実現によって何を目指すのか、明記した方がよい。
  • 「人間の安全保障」は、人間開発、人権保障が中心的な概念の柱であるが、特に人権保障の点で、外務省、経産省が企業のサプライチェーンに求めている、「人権デューディリジェンス(人権DD)」の考え方、特に人権を守るためのデュープロセスを明記すべきである。途上国を含めた地域での開発において、企業に対して人権DDを求めるなら、当然のことながら、「大綱案」に含めるべきである。
  • 【対案】
    ①「人間の安全保障」の簡潔な定義(政府としての捉え方)を明確にする。
    ②人権のデュープロセスとして、外務省が推奨している、「人権デューディリジェンス(人権DD)」を含める。この人権DDは、政府のみならず、市民社会、企業等、開発協力に関わるすべてのアクターが対象になる。

8. 非軍事原則は、その趣旨を徹底するために、曖昧な規定をなくすべきである。同時にOSAについては、これまで築いてきた、我が国の中立性や国際協調主義、ODAが築き上げてきた財産を壊しかねない。

  • もともと、現在の「大綱」で、民生目的・災害援助等の名目で軍や治安当局への援助の道を開き、実質的に軍・警察への能力強化につながった懸念があった。実際に4月26日、外務省はミャンマーに供与した船舶が兵士や武器の輸送に使われた事実を公表した。もともと目的外使用や第三者への移転をチェックすることの難しさを指摘してきたが、その懸念が現実になった。
  • OSAを実施すれば、被援助国ではODAと一体となった運用がなされ、双方の線引きが難しくなり、ますますODAの非軍事原則が曖昧になる。
  • 【対案】以下の内容を含める。
    ① 非軍事原則は、相手国政府からの報告、モニタリング等を通じてより徹底し、それに反する行為があった場合には、ODAを停止する
    ② 我が国が締結している武器貿易条約(ATT)に反する行為が認められる場合には、ODA供与を停止する。

9. ODAの国際目標、GNI比0.7%の達成を明確にする。そして我が国の国際協力は、無償資金協力を増大すべく、一般会計におけるODA予算を増額すべきである。

  • 「ODAの国際目標0.7%は、念頭に置く」は、「報告書」から大きく後退した。我が国の国際的な責任を果たす上で、ODAの国際目標について、達成年度を明確にし、目標の達成に向けた姿勢を明確にすべきである。
  • 我が国のODAの拡大を目指す上で、我が国の借款の比率はすでに他国を大きく上回っている。OECD-DACで、「無償」より「借款」が多い国は日本のみであり、全体の借款の63%を占めている。今後は、1997年度をピークに下がったODAの一般会計予算を引き上げ、無償資金協力を拡大すべきである。
  • 【対案】
    ① 報告書に記載されていた「GNI比0.7%目標を10年で達成する」を復活させる
    ②ODAの中で、無償資金協力の拡大、ODAに占める無償資金協力の比率を引き上げる。

10. 我が国の役割は、特にアジア・太平洋地域において、貧困を含めた様々な「脅威」を引き下げるために、さらに開発協力を強化し、人権、民主主義等の普遍的価値の浸透させる外交を推進することである。

  • 確かに、安全保障上の脅威が増しており、多国間主義や民主主義への挑戦、市民社会スペースの縮小等の危機が増している。しかしこれらの国際環境の中で、我が国が取るべき道は、特にアジア・太平洋地域における様々な脅威を引き下げるために、「人間の安全保障」を軸にした国際協力、人権や民主主義を推進することであり、近視眼的な日本の安全保障や国益の実現、「同志国」の安全保障能力向上や軍当局の支援ではない。
  • 改めてODAのアカウンタビリティ、透明性の確保と市民社会の参加によるモニタリング、評価を強化していくべきである。
  • 【対案】
    ① 全体に関わることであるが、上記の内容に沿った「大綱案」の変更を求める
    ② ODAの透明性の確保、アカウンタビリティの強化を、様々なステークホルダーと共にモニタリング等を通じて強化することを記載する

本件に関するお問い合わせ先

国際協力NGOセンター(JANIC)
THINK Lobby 担当:若林
admi@thinklobby.org

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