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RESEARCH
FROM世界の医療団(認定NPO法人)
MAY.07.2025
バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプは、90万人以上の人々が住む世界最大の難民キャンプの一つといわれています。2017年に70万人以上の人々が隣国ミャンマーでの迫害から逃れてきて以来、世界の医療団は保健分野での支援を実施しています。新型コロナウィルスが猛威を振るっていた2020年には、難民ボランティアを通じた予防啓発やマスクの配布等を行いました。翌2021年以降、世界的に最大の死因であるものの、対策が遅れている非感染性疾患(non-communicable diseases: NCDs)[1] について難民キャンプとその周辺地域のホストコミュニティの双方で、予防・管理についての啓発、診療所の能力向上支援を実施しています。
NCDsは世界中で全死因の74% [2]、バングラデシュでは67% [3] を占めます(※日本では85.3% [4] )。この現状に対する難民キャンプ、ホストコミュニティにおける対策は十分ではありません。ロヒンギャ難民の33%の世帯に高血圧症や糖尿病に罹患した人々がいます [5](※ホストコミュニティについてはデータなし)。世界の医療団は、高血圧症、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、がん及びメンタルへルスについて、当事者(難民・ホストコミュニティ住民)ボランティアを通じた予防・管理についての健康教育と診療所の診療能力向上のための資機材・薬剤提供、モニタリング、助言を行っています。
ロヒンギャ難民に対する健康教育
これまで計のべ約2万人の難民、約2万5千人のホストコミュニティ住民、7診療所を支援しました。介入前後のKAP(知識(knowledge)・態度(attitude)・行動(practice))調査を通じて彼らの多くのNCDsの予防・管理についての知識の向上、行動の変容が見られました。
KAP調査
一方で、健康リスクの高い噛みたばこ [6] の禁煙に踏み切った人は多くありませんでした。この背景として喫煙が習慣に深く織り込まれていること、ホストコミュニティが材料の産地であること等が推察されます。支援対象診療所については、キャンプで現地NGOが運営しているところは診察、薬剤管理、資機材管理、衛生等の面で向上し、ホストコミュニティの基礎診療所(community clinic:CC)でも職員の知識や手技の向上が見られます。
ホストコミュニティ住民に対する健康教育
以上の支援は現地NGOと連携して実施しています。私達はあくまでもドナー、技術支援者としての役割を担いながら当該現地NGOが前面に立って行っており、今後も「支援の現地化」を促進します。ただ、下記の外在的課題が存在します:
1、さらなる難民の流入
ロヒンギャの故郷で、キャンプが存在するバングラデシュ・コックスバザール県に隣接するミャンマー・ラカイン州ではミャンマー軍とこれに抵抗するアラカン軍の戦闘が激しく、後者がラカイン州の大半を制圧しています。残念ながら、仏教徒を中心としたアラカン軍もロヒンギャを迫害していると言われており、最近、15~20万人のロヒンギャの人々が新たに難民キャンプに流入しています。バングラデシュ政府(暫定政権 [7] )は彼らを正式に避難民 [8] とは認めず、国際社会はうち5万人を支援対象としています。とはいえ、当然、全員に支援が必要です。難民の希望は国籍・市民権、尊厳を取り戻した上での自発的で安全な帰還ですが、残念ながらこれは容易に実現しない現状です。世界の医療団も「医療へのアクセスが一人一人の権利として確立している世界」とのビジョンの下、これから当面、キャンプに留まらざるを得ないこうした人々へもNCDsにおける支援を提供します。
2、現地の保健システムの脆弱さ
ホストコミュニティの基礎診療所であるCCには正式な資格をもった医療従事者がおらず、ボランティアが診察と簡単な投薬を行っています。また、多くのCCには十分な人材が配置されておらず、彼らへの給与遅配も起こっています。資機材も不足しており、これを充足させるための資金もありません。このため、本来、無料である診療に対して患者から寄付を募らざるを得なかったり、CCを運営する地元住民グループが資金を貯めたり、用意したりせねばなりません。
また、CCの上位にある二次診療施設である郡病院でも人材が不足しており、十分にCCを監督・支援できていません。
全体的にヒト・モノ・カネ、サービスの面でところどころに「穴」が開いています。私達もこれらをすべて埋める支援はできませんが、人材(の能力)、資機材・薬剤において最低限の素地の底上げを図るべく、支援を続けていきます。
ホストコミュニティ診療所のモニタリング
(報告:世界の医療団 海外事業プロジェクト・コーディネーター 中嶋秀昭)
[1] 高血圧症、糖尿病等のいわゆる「生活習慣病」であるが、これらの罹患の原因は必ずしも個人の生活習慣のみに帰せられるべきものではなく、貧困による安価な高加工食品摂取に頼らざるを得ないことによる等、経済・社会的要因(健康の経済・商業・社会的決定要因(economic/commercial/social determinants of health))による面も大きく、また、正確にはがんや精神疾患等も含むため、単なる疾病分類として「非感染性疾患」と呼ぶ。
[3] NCD_CCS_2019_Country_Profile_BAN.pdf
[4] Japan
[6] 当地のたばこは主なものとして「ベテルリーフ」という葉にビンロウの実と石灰入れ、これにたばこ成分(ニコチン)を混ぜ込むもので、覚醒作用と中毒性をもたらす。広く東南アジア、太平洋諸国にも見られる。ホストコミュニティはベテルリーフの産地で、客へのもてなし等でこのたばこが勧められたりする。子どもの頃から摂取している人々もいる。
[7] 昨年(2024年)8月5日に前政権が人々のデモによって崩壊。マイクロファイナンスを創始し、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士を首班(Chief Advisor)とする暫定政権が発足した。
[8] バングラデシュ政府は難民条約を批准しておらず、ロヒンギャ難民を難民と認定せず、”Forcibly Displaced Myanmar Nationals”と位置付けている。
世界の医療団
特定非営利活動法人メドゥサン・デュ・モンド ジャポン(認定NPO法人)
E-mail info@mdm.or.jp
https://www.mdm.or.jp/
東京都港区東麻布2-6-10麻布善波ビル2F
TEL: 03-3585-6436
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