100カ国 2,500人が集う 国連ビジネスと人権フォーラム― 市民社会にとって「ビジネスと人権」は、持続可能な社会に向けた最重要課題

人権・ダイバーシティ2017.12.26

過去最高の2,500人が参加する世界最大の「ビジネスと人権」の国際会議

11月27日から29日まで、国連ジュネーブ事務局で「第6回国連ビジネスと人権フォーラム」(以下、フォーラム)が開催された。このフォーラムは2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、「指導原則」)の普及を目指し、2012年から始まった。今年は、過去最高の世界100以上の国と地域から、企業や経営者団体、NGOなどの市民社会組織(CSO)、先住民族などの人権侵害を受けたグループ、労働団体、弁護士や研究者ら約2,500人が参加した。

人権理事会の会議などが開かれる「Room XX」。天井は、スペインを代表するアーティスト ミケル・バルセロ氏の作品。天井から垂れ下がっている様々なかたちや色は、人権理事会に集まる異なる言語と意見を持つ人びとを表しているらしい。

会議の議論を、イラストを使って記録したグラフィックレコーディング。会議に参加していなくても、どんな議論がされたか一目でわかる。

企業の責任あるリーダーシップを通して持続可能な成長を世界レベルで実現していく枠組み国連グローバル・コンパクト(UNGC)のローカルネットワークであるグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)では、2016年からフォーラム参加ツアーを実施している。今年は、メーカーや商社、コンサルティング会社など10社が参加し、GCNJの理事でもある筆者はツアーの団長を務めさせていただいている。このツアーの狙いは、企業と人権の最新動向や先進事例を学び、自社の取り組みの参考にすることである。

今、なぜ、「ビジネスと人権」なのか

そもそもなぜ、「ビジネスと人権」が国際社会の共通テーマとして取り上げられ、様々な法律やルールが作られてきたのか。

最大の理由は、企業の経済的・社会的影響力の高まりである。比較する数値の性格は違うものの、世界の企業の売り上げと各国のGDP(国内総生産)のトップ100を並べると、およそ半分は企業が占めるほどになっている。その意味において、今や途上国では、開発における企業の人権や環境に対する影響力が極めて大きくなり、一方で政府は企業の人権侵害を食い止めるどころか、むしろ助長するようなことが世界で起きている。

特にここ数年、世界では難民・移民の受け入れ拒否や排外主義が広がり、政府・企業による人権活動家(ヒューマンライツ・ディフェンダー)、人権侵害を受けた当事者(ライツ・ホルダー)の弾圧、強制失踪、殺害、またNGOへの規制強化等も後を絶たない。
まさに持続可能な開発目標(SDGs)、特に目標8「働きがいも経済成長も」や目標16「平和と公正をすべての人に」に反することが世界で起きており、NGOとしても、この「ビジネスと人権」は、極めて重要な課題になってきている。

「ビジネスと人権に関する指導原則」が生まれた背景

「ビジネスと人権」に関する規制は、国際労働機関(ILO)の三者宣言や経済協力開発機構(OECD)の多国籍企業ガイドラインなど1970年代にさかのぼる。しかし本格的にこの分野が注目を浴び、より厳しい規制の必要性が出てきたのは、1990年前後のグローバリゼーションの進展により、企業の環境や人権等の社会的な課題に与える影響力が飛躍的に大きくなったことによる。国連としても、その影響に対処する取り組みが1990年代に試みられたが、企業側等の反対圧力があり、本格的には2000年のグローバル・コンパクトの設立を待たなければならなかった。

Photo by Amnesty International

規制強化の機運を生んだ象徴的な出来事は、ナイジェリアで起きた事件だった。
ナイジャーデルタ(ニジェール川流域湿地帯)では、シェル社による石油やガスの採掘で環境やコミュニテイが破壊され、1980年頃から反対運動が活発に行われていた。反対運動は、原油収入に依存していた政府にも影響を与えかねず、1995年に平和的な反対運動を行っていたリーダー、ケン・サロイワ氏らを逮捕、処刑した。シェル社はこれに対し何も働きかけをせず、「暗黙の加担」として批判された。この事件は世界に衝撃を与え、その後の“ビジネス”の規制のあり方に大きな影響を与えたのである。

1997年から国連事務総長アドバイザーを務め、グローバル・コンパクト設立に尽力したジョン・ラギー氏の功績は大きく、最終的に2011年「指導原則」として結実した。
この原則は、全ての国と企業が守るべき基準であり、(1)国の人権を保護する義務 (2)企業の人権を尊重する責任 (3)人権侵害を受けた人びとの救済へのアクセスという3つの柱からなる。全ての国と企業に適用され、法的な拘束力はないものの、国や政府の自主的な取り組みを期待し、今では政府とビジネスが守るべき基準として定着しつつある。最近では、G20 の主要テーマになっている。

フォーラムでの議論ポイントは、「効果的な救済」

今回のフォーラムの全体テーマは、「指導原則」の3本柱の一つである「救済へのアクセス(Access to Remedy)」が初めて取り上げられた。どんなに国が人権を守り、企業が人権侵害が起きない仕組みを作っても、「人権侵害」は起きるのであり、その際に、被害者が救済を求められる有効な仕組みが絶対必要なのである。この3番目の柱が担保されて初めて指導原則が“完成”すると言えよう。

被害者は、一般的に国や企業と比較して、救済を求める力は圧倒的に弱い。だからこそ、被害者に必要な救済が担保されるような、信頼性や透明性がある仕組みが必要なのである。

日本でも苦情処理窓口を持っている企業は一般的にあるが、被害者にとってどこまで苦情が訴えやすく、適切に苦情が処理されているのか、その実情は見えにくい。むしろ、企業にとって苦情件数が少ないことをよしとする風潮がある。フォーラムでは、むしろ「苦情処理件数が多いことが機能している証拠」との意見が多く出された。

ミャンマーのティラワ経済特区の住民移転問題のセッションでは、開発実施者側である国際協力機構(JICA)や企業連合の代表者、ミャンマー政府、開発実施に肯定派の住民と被害を受けている住民がパネリストとして登壇して議論が行われ、その複雑な問題の構造が浮き彫りとなった。また2020年東京オリンピック・パラリンピックのセッションでは、このメガスポーツイベントが持続可能な大会になるように、組織委員会による人権や持続可能性に配慮した「調達コード」や、全日空(ANA)の取り組みが発表された。

持続可能な社会を目指す2020東京オリンピック・パラリンピックに関するセッション

日本政府による行動計画(NAP)

日本政府は昨年のフォーラムで、国際的な約束である「ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)」をここ数年のうちに策定することを表明した。そのこと自体は大いに評価されるべきことだが、この1年間、政府の動きが鈍く、策定に向けた進捗は思わしくない。今回のセッションで日本政府から、「NAPはSDGsの実施指針にも含まれており、現在ベースライン・スタディ(現状の問題点や国際基準が求める水準とのギャップの把握)を開始し、2020年東京オリンピック・パラリンピックを視野に置きながら、複数年かけて策定するよう努力する」との発表があった。

「ビジネスと人権」はビジネス界だけにまかせるのではなく、市民社会の重要課題!

フォーラム最後の全体会議で挨拶したザイド国連人権高等弁務官は、「指導原則を実行に移すには、ビジネスや政府だけでなく、市民社会や労働組合の協力が欠かせない」として、市民社会組織のさらなる関心と取り組みを呼びかけた。

フォーラム最後に締めくくりの演説をしたザイド国連人権高等弁務官

「ビジネスと人権」は、ビジネス社会の問題だと捉えられ、必ずしも市民社会や
NGOの関心は高くない。しかし、すでに述べてきたように、企業の開発における影響の大きさを考えれば、市民社会の関心や取り組みはますます重要になることは間違いない。

では、企業の使命は何なのか。利益を生み雇用を創出することは、企業の使命の一部であり、本質的には、人びとの暮らしを守り、人間が人間らしく生きられる社会=人権が守られる社会の創造につきるのではないだろうか。企業もまた人権を守り、社会と共に発展していく公器なのである。

2018年12月10日、「世界人権宣言」は採択70周年を迎えるが、改めてその原点に
立ち返り、「ビジネスと人権」の本質に“我々”も目を向け直してはどうであろうか。
JANICとしても、絶対に目を離してはいけないイシューである

JANIC正会員団体

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